遺産分割調停と遺言書の作成
2019.10.04
税務トピックス
相続・資産税
遺産分割調停とは、遺産分割協議が当事者の間でまとまらない場合、家庭裁判所に申し立てて意見を調整してもらう手続きのことです。
平成29年に家庭裁判所が扱った遺産分割事件数のうち、調停成立は6,736件で、その審理期間は「6ヶ月超1年以内」が3,978件で最多となり、1年を超えるものについても2,087件に上ります。
裁判所HP:司法統計より
遺族が相続のために長期間争うことは、被相続人の本意ではないことでしょう。
しかし仲良くみえる兄弟でも、相続時には、自分の生活を守るため、あるいは過去のわだかまりが噴出するなどで、対立関係になることはよくあります。
そのため被相続人は、できれば遺言書を作成し、相続人が争うことなく遺産を相続できる準備をすることが望ましいです。
遺産分割調停になる理由
遺産分割が当事者間でまとまらない原因は、感情のもつれです。
特に、次のような権利関係を巡って意見が対立し、感情のもつれに発展することが多くなります。
特別受益
特別受益とは、被相続人から特定の相続人だけが受け取った財産のことです。
特別受益がある場合、各人の相続分は、相続財産に特別受益をプラスして計算し、特別受益を受けた人の相続分から、その特別受益の額を控除します。
【例】
相続人:長男、次男、三男
相続財産:現金3,000万円、ただし三男は300万円の特別受益を受けている
この場合、各人の相続分は次のようになります。
(3,000万円+300万円)×3分の1=1,100万円
・長男 1,100万円
・次男 1,100万円
・三男 800万円(1,100万円-300万円)
特別受益は、遺贈のほか、生前に被相続人から受けた生前贈与が対象となり、多くの場合、他の相続人から指摘されることで発覚します。
たとえば、兄弟のうち1人だけ医師になるため高い学費を払ってもらったとか、1人だけ結婚祝いで家を買ってもらったといったものです。
相続税の計算では、過去3年分の生前贈与までしか遡らないという決まりがありますが、特別受益は各人の相続分の計算にかかるもので、税法のような遡及の期間に決まりはありません。
そのため1人が言い始めると、お互いが過去の話を指摘し合い、感情のもつれに発展することがあります。
寄与分
寄与分とは、被相続人の財産の維持形成に貢献した相続人が、その分の財産を優先的に取得できる権利のことです。
寄与分がある場合、各人の相続分は、相続財産から寄与分を控除して計算し、寄与分がある人の相続分にその寄与分の額をプラスします。
【例】
相続人:長女、次女、三女
相続財産:現金3,000万円、ただし長女には300万円の寄与分がある
この場合、各人の相続分は次のようになります。
(3,000万円-300万円)×3分の1=900万円
・長女 1,200万円(900万円+300万円)
・次女 900万円
・三女 900万円
寄与分は、生前の被相続人の事業に貢献したことや、被相続人の療養看護を行ったことなどによって、財産の維持やその増加に貢献したことが該当します。
多くは自ら他の相続人に「私が出資したおかげで父の事業が成功した」とか、「私しか晩年の介護をしなかった」等と主張するものとなり、特別受益と同様に、1人が言い始めれば、際限なく主張し合う状態になる可能性があります。
また法改正によって、相続人以外の親族にも、被相続人の療養看護等を行った場合の特別寄与が認められるようになりました。
遺留分の算定範囲
兄弟姉妹以外の相続人(被相続人の子や親など)には、最低限の相続分を主張できる遺留分という権利があり、その算定範囲は、生前贈与については原則1年前まで遡及できるものとされています。
しかし、1年より前の贈与についても、その贈与が遺留分を侵害することを知って行われた贈与である場合は遺留分の算定に含まれるルールがあるため、過去に多額の生前贈与がある場合は、遺留分の算定範囲を巡って争いになることがあります。
遺産分割調停にならないためには正確な遺言を
遺産分割で争いにならないための最善の策は、被相続人が遺言書を作成することです。
多くの相続人は、被相続人の思いを実現したいと考えていますので、どの財産を誰が相続するか、あるいはどのように相続するかを示せば、それだけで避けられる争いもあります。
またその内容は、遺留分を侵害しない内容とすることはもちろん、寄与分を考慮し、さらに特別受益の持ち戻し免除を明記するなどにより、争いが起こる可能性はさらに低くなります。
そして、必要事項ではありませんが、なぜそのような分け方をしたかを遺言書の「付記事項」として書くことも一つの手です。
1人1人の相続人が納得できる理由を書き、さらに感謝の意を添えることで、争って欲しくないという思いが伝わることでしょう。
ただし遺言は、法律に定められた方式で作成しなければ効力がありません。
不正な方式で作成すると、もし遺言どおりの相続をしたくない者が出てきた場合、今度は、その効力を巡って争いになる可能性が出てきます。
遺言の作成方法や内容等については、相続の専門家に相談しましょう。