オンライン講座の受講料と源泉所得税について
2021.10.08
税務トピックス
所得税
従業員が受けたオンライン講座の受講料を会社が負担したときの源泉徴収について解説します。
オンライン講座の受講料が給与にあたる?
新型コロナの影響で、一つの部屋に集まって研修を行う機会が減少したことから、
従業員の自己啓発を促すため、オンライン講座の受講を推奨する会社があるようです。
しかし、オンライン講座の受講料を会社が負担する場合、その受講内容を
よく確認する必要があります。
内容によっては、従業員の給与にあたるため、源泉所得税を徴収しなければ
ならない場合があるからです。
会社が従業員個人のために費用を負担すると給与になる
オンライン講座の受講料について解説する前に、なぜ会社が負担した受講料が
給与にあたる可能性があるのか、その理由を、法令で整理しておきましょう。
「給与」として支給していなくても税法上の給与にあたる
税法上の給与にあたるものを、「給与所得」といいます。
この「給与所得」にあたるものとして、所得税法では「俸給、給料、賃金、歳費及び
賞与並びにこれらの性質を有する給与」と定義しています。(所得税法第28条)
「これらの性質を有する給与」としていることから、支給する名目が何かではなく
その中身で判断しなければなりません。
つまり、月給のような形で支給していないものでも、
税法では給与にあたるものがあるということです。
金銭でなくても給与にあたる
さらに、支給されるものが金銭でなくても、給与にあたる可能性があります。
税法で「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」についても、各所得を
計算するときの収入に該当すると定められているからです。(所得税法第36条)
では何が「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」にあたるのでしょうか。
国税庁のタックスアンサーでは、下記のようにまとめられています。
ア 物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡したことによる経済的利益
イ 土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けたことによる経済的利益
ウ 福利厚生施設の利用など(2)以外の用役を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益
エ 個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益
このような形で給与とされるものを、実務では「現物給与」といいます。
たとえば、業務にまったく関係のない個人的な資格取得のための専門学校の授業料を
会社が負担した場合、その授業料は、本来、従業員が個人で負担すべき債務ですので、
上記のエのとおり、現物給与にあたります。
このとき、その授業料分の給与の支給があったものとして源泉徴収をする必要があります。
「それなら、会社が従業員に与えるものは何もかも給与なのか」というと、そうではなく、
所得税法で非課税とされているものや、国税庁の通達によって課税しなくて差し支えない
という方針が示されているものであれば、給与として扱いません。
オンライン講座の受講料の場合は、通達が重要になります。
(参考)国税庁HP:給与所得となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm
オンライン講座の受講料は受講内容で判定する
オンライン講座の受講料を給与とするかどうかは、下記の通達に基づいて判断します。
所得税法基本通達36-29の2(下線は筆者によるもの)
“使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき、役員又は使用人に当該役員又は
使用人としての職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、
又は免許若しくは資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等における
聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、
課税しなくて差し支えない。”
つまり、従業員の職務に直接必要な知識を習得させるための費用として適正な範囲内であれば、
会社が負担しても、給与として扱う必要はないのです。
このことから、自己啓発のために従業員が自己判断で受講したオンライン講座の受講料を
会社で負担するときは、講座の内容が、その従業員の職務に必要なものといえるかどうかを
チェックする必要があります。
日ごろ、会社の指示で、その職務担当者に受けてもらっている講座と同種の講座であれば、
一般的に業務に直接必要なものと扱ってよいと考えられますが、そうでないものは、
何の講座であるかを確認せずに、費用を負担することがないよう注意が必要です。
もし講座名などから業務との関連性が判断しづらいものがあれば、
講座内容がわかるレジュメ等を保管しておくなどして対策しておきましょう。
迷ったときは税理士にご相談ください。