人材確保等取組促進税制をわかりやすく解説

2021.11.26

税務トピックス

法人税

人材確保等取組税制とは

制度の概要

人材確保等促進税制とは、国内雇用者(雇用保険の一般被保険者に限る)の各雇用日から1年以内に支払った給与(以下、「新規雇用者給与等」)を、前年度のそれよりもアップさせた企業が、「新規雇用者給与等」の15%(最大20%)を当年度の法人税額から控除できる税制です。

適用することを狙っていなかった企業でも、前年度よりも全体の給与の支給額が増加している企業のうち、今期中、採用人数を増やした企業や、新しく雇った従業員の1人あたりの賃金をアップさせた企業は、適用できる可能性があります。

 

適用期間に注意

人材確保等促進税制の適用期間は、令和3年4月1日から令和4年3月31日までに開始する事業年度です。

昨年から報道で盛んに取り上げられている「賃上げ促進税制」は、令和4年4月1日から開始する事業年度から適用されます。

これから実施される、令和3年12月期や令和4年3月期などの法人税申告は、「人材確保等促進税制」での適用を検討することとなりますので、ご注意ください。

 

人材確保等促進税制の対象

人材確保等促進税制の主体は、青色申告をしているすべての法人・個人事業主です。

中小企業や個人事業主は、新規雇用者への給与に限られない「所得拡大促進税制」とどちらか一方を選択できますが、それ以外の企業は、人材確保等促進税制のみ適用を検討することになります。

 

人材確保等促進税制の適用要件

「新規雇用者給与等支給額」が、前年度より2%以上増えている場合、「控除対象新規雇用者給与等支給額」の15%を法人税額から控除することができます。(通常要件)

 

(出典)経済産業省:「人材確保等促進税制」御利用ガイドブックより

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/syotokukakudai.html

 

 

「新規雇用者給与等支給額」・「新規雇用者比較給与等支給額」とは

「新規雇用者給与等支給額」とは、雇用した日から1年以内に支給した給与(賞与を含む)の金額です。

「新規雇用者給与等支給額」が当年度分、「新規雇用者比較給与等支給額」が前年度分のもので、各年度において、従業員ごとに、雇用した日から1年以内の給与を計算します。

わかりやすい例でイメージを掴みましょう。

【計算例①: X社の令和4年3月期】

・令和2年4月に新卒のAさんを月額30万円(年360万円・賞与0円)で雇用した

・令和3年4月に新卒のBさんを月額32万円(年384万円・賞与0円)で雇用した

・AさんとBさんは、雇用保険の一般被保険者である

・新規雇用者(比較)給与等支給額の計算対象になるのはAとBの2人のみである

→計算式

(384万円-360万円)/384万円=6.25%≧2%

∴適用要件を満たす

 

【計算例②:Y社の令和4年3月期】

・令和2年6月にCさんを月額30万円(賞与なし)、令和3年7月にDさんを月額32万円(賞与なし)で、それぞれ中途採用した。

・他の条件は、計算例①と同じ

→計算式

中途採用者がいる場合は、対象となる給与を、従業員ごと事業年度ごとに整理します。

  新規雇用者給与等支給額
(当年度)
新規雇用者比較給与等支給額
(前年度)
Cさん 2か月

(令和3年4月分・5月分)

10か月

(令和2年6月~令和3年3月分)

Dさん 9か月

(令和3年7月分~令和4年3月分まで)

なし

当年度の新規雇用者給与等支給額

→C:60万円(30万円×2か月分)、D:288万円(32万円×9か月分)、合計:348万円

前年度の新規雇用者給与等支給額

→C:300万円(30万円×10か月分)、D:0円、合計:300万円

このことから、計算式は下記のようになります。

(348万円-300万円)/348万円≒13.8%≧2%

∴適用要件を満たす

 

「控除対象新規雇用給与等支給額」とは

「新規雇用者給与等支給額」とおおむね同じですが、計算対象を雇用保険の一般被保険者への給与等に限らない点や、企業が「雇用安定助成金」(例:雇用調整助成金、産業安定助成金など)を受給している場合はそれを含まないといった違いがあります。

 

人材確保等促進税制の適用要件(上乗せ要件)

通常要件の上乗せとして、「教育訓練費」が前年度より20%以上増えている場合は、さらに「控除対象新規雇用者給与等支給額」の20%(通常の+5%)を法人税額から控除できます。

 

人材確保等促進税制の注意点

役員給与や役員の親族等への給与は対象外

役員や使用人兼務役員に対する給与は、「新規雇用者給与等支給額」になりません。

また、役員と特殊関係にある者(役員の親族や事実婚の相手、役員から生計支援を受けている者など)に対する給与も対象外です。

 

税額控除の制限

税額控除は、「控除対象新規雇用者給与等支給額×15%(上乗せで+5%)」で計算しますが、この「控除対象新規雇用者給与等支給額」には、以下の制限があります。

 

給与に充てる金銭をもらっている場合

その給与に充てるために他者から金銭を受けているときは、その金額を控除します。

例:補助金や助成金、出向元が負担する給与など

 

「控除対象新規雇用者給与等支給額」は、①新規雇用者給与等支給額と、②当年度における雇用者給与等支給額から前年度分を控除した金額(≒従業員全体の給与増加額)とのどちらか小さい方に15%を乗じて計算します。

このことから、新規雇用者の給与だけ増えていても、全体の給与が前年度より下がっている企業は控除を適用できません。

 

法人税等の20%が上限

「控除対象新規雇用者給与等支給額×15%(上乗せで+5%)」は、法人税額の20%が上限となります。

新規雇用者への給与が増えていても、法人の所得が増えていなければ、15%(+5%)の控除額を満額で計上できないことがあります。

 

※人材確保等促進税制の適用は税理士にご相談ください。