民法 相続法大改正のポイント
2020.03.13
法改正情報
2018年に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」による民法等の改正等によって、40年ぶりの相続法の大改正が行われました。
すでに施行されているものもありますが、2020年から施行されるものもあります。
今回は相続法大改正のポイントを、2019年までに施行されているものと2020年に施行されるものに分けてご紹介します。
◯自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日施行)
それまで全文を手書きとしなければならなかった自筆証書遺言について、添付する財産目録の手書き要件が撤廃されました。
これにより遺言者は、関係書類(例:登記事項証明書、通帳等)のコピーやパソコンで作成した書類などを財産目録として、自筆証書遺言による遺言書に添付できるようになりました。
手書きによる誤記の防止や、作成負担の軽減が期待されます。
◯夫婦間の居住用不動産の贈与等の持戻免除の推定(2019年7月1日施行)
相続では特定の相続人に特別受益(生前に受け取った財産など)がある場合、相続財産に持戻して相続分を計算するルールがあり、持戻しをさせないためには、被相続人による持戻免除の意思表示が求められます。
しかし今回の改正で、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の贈与や遺贈が行われた場合に、その贈与や遺贈には持戻免除の意思があったものと推定されるようになりました。
これによって、配偶者が自宅以外の財産も相続しやすくなったといえます。
◯預貯金の払い戻し制度(2019年7月1日施行)
相続人が複数いる場合の被相続人の預貯金は、相続直後は全員の共有財産となるため、遺産分割をするまで金融機関から払い戻しを受けることができませんでした。
そのため、生活費や葬儀費用、債務の弁済など必要な金額も払い出せず不便が生じていましたが、今回の改正によって、一定額までを単独の相続人が払い出せるようになりました。(一定額:預貯金額×3分の1×自身の法定相続分)
◯遺留分制度の見直し(2019年7月1日施行)
改正によって、遺留分減殺請求を遺留分侵害額に相当する「金銭」で請求できるようになりました。
これで何の問題が解消されたかというと、たとえば財産の大半が会社の不動産などの場合、事業承継者に大きな財産が渡ることが多く、この状態で他の相続人から遺留分減殺請求が行われると、不動産が共有状態になってしまい、事業承継が円滑にできないといった問題です。
遺留分を金銭で請求できれば、不合理な共有状態を回避し、一方は円滑な事業承継、もう一方は遺留分の確保という目的を達成できることになります。
◯特別の寄与(2019年7月1日施行)
相続では、被相続人の財産の維持形成に貢献のあった相続人に対し、「寄与分」として、他の相続人に優先してその財産を受け取る権利が認められています。
しかし、それまでの「寄与分」は相続人にしか認められず、相続権のない長男の嫁などはいくら介護をしても一切財産を受け取れないという不公平が生じていました。
今回の改正では、こうした親族との公平性を図るため、無償で療養看護などをした「相続人でない親族」について、相続人に「特別寄与料」の請求ができるようになりました。
◯配偶者居住権の新設(2020年4月1日施行)
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、住み慣れた自宅に引き続き暮らせるよう、その自宅に「居住する権利」のみを相続できるようにしたものです。
通常、財産のうち高額になりやすい自宅を配偶者が相続する場合、相続分の上では、他の現金等の財産が相続できなくなるという弊害がありましたが「居住する権利」を「所有する権利」から分けて相続できるよう改正することによって、「居住する権利」のみの評価額で自宅を相続できるようになったということです。
配偶者居住権については、こちらの記事で詳しく書いています。
2020年4月から施行される「配偶者居住権」とは↓
◯自筆証書遺言の保管制度の創設(2020年7月10日施行)
こちらは民法の改正ではありませんが、自筆証書遺言による遺言書について、法務局の遺言書保管所における保管制度が創設されます。
この制度では、自筆証書遺言を作成した人が、法務局にその遺言書について保管申請を行い、遺言書の原本を預けることができるようになります。
預けた遺言書は、遺言者が亡くなった後に、相続人や受遺者等からの請求によってその写しの交付等が行われるしくみです。
相続人らが遺言書を発見した場合の家庭裁判所の検認も必要ありません。