インボイス制度における経理担当者のメリットを解説
2022.12.23
税務トピックス
導入準備や税の負担から、ネガティブなイメージを抱かれることの多いインボイス制度ですが、良い面にも目を向けて取り組みたいところです。
この記事では、インボイス制度によって、買い手側の経理担当者が課税処理をしやすくなる理由について解説します。
現行制度(区分記載請求書等保存方式)の特徴
現行制度である「区分記載請求書等保存方式」では、複数税率に対応した区分経理や、一定事項が記載された請求書等(請求書、領収書、レシートなど。以下「請求書等」)の保存を「買い手側」に義務づけています。
請求書等の記載事項が法定されているにもかかわらず、「売り手側」にはそうした請求書等を作成・交付する義務はありません。
売り手側は、あくまで取引上の慣習として請求書等を作成・交付しているに過ぎないのです。
このことから、現行制度には下記のような特徴があります。
不完全な請求書等は買い手側で「追記」が可能
現行制度における請求書等の法定記載事項は、下記の5項目です。
1 売り手の氏名又は名称
2 取引年月日
3 取引内容(軽減税率対象である場合には、取引内容と軽減対象である旨)
4 税率ごとに合計した対価(税込価格)
5 買い手の氏名又は名称
下線部は、従前の制度からの追加項目になります。
現行制度では、下線部分のみの記載がない請求書等であれば、買い手側において不足項目を「追記」し、仕入税額控除を適用できると定めています。
3万円未満なら請求書等がなくても仕入税額控除が可能
現行制度では「3万円未満の取引」や「交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合の取引」であれば、請求書等の保存がなくても、帳簿保存のみで仕入税額控除を適用することができます。
「交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由」については、こちらの記事で紹介しています。
クレジットカード明細・領収書等の保存義務|電帳法と消費税法の違い | おぎ堂会計事務所 (m-ogido.com)
現行制度が抱える問題点
前項の特徴は、一見便利なルールなのですが、これは買い手側の経理担当者の判断で仕入税額を計算できる余地があるということです。
消費税には、「これが〇〇なら課税だけど、△△なら非課税」、「これが〇〇なら8%だけど、△△なら10%」のように、前提がわからなければ正確な税額を判定できないケースが数多く存在します。
この判定を誤り、仕入税額を多く計上してしまうと、買い手側が税務調査における否認リスクを負うことになります。
取引相手や精算を申し出た従業員に対してどこまで確認をとるかは、経理担当者の経験や考え方によってまちまちでしょう。
また、相手に消費税の知識がないと、確認してもポイントのズレた回答しか得られず、結局よくわからないというケースもあるのではないでしょうか。
正確な消費税額で経理をしなければならない経理担当者にとって、一見便利なルールが時として余計なものとなっているのです。
インボイス制度のメリット
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、買い手側で消費税額を判断するようなことはほとんどなくなります。
インボイス制度で見直される点
・適格請求書発行事業者の登録制度
インボイス制度では、適格請求書発行事業者に登録した売り手しか、仕入税額控除を適用できる請求書等(適格請求書等)を発行できません。
登録できるのは、課税事業者やこの機に乗じて課税事業者になる者のみとなり、発行側にも消費税の知識が必要になります。
・インボイス交付の義務化
適格請求書発行事業者(売り手側)には、買い手側の求めに応じて請求書等(適格請求書等)を交付する義務が生じます。
・適用税率や税率ごとの消費税額の記載が義務化
適格請求書等には、税率ごとの合計価額やその適用税率、税率ごとの消費税額などの記載が必要となります。
・買い手側で追記は不可
不足項目があったとしても、買い手側で追記することはできません。
売り手側(適格請求書発行事業者)に修正を求める必要があります。
・3万円未満の取引も対象に
現行制度では保存不要とされている3万円未満の取引についても、下記を除き、売り手側に交付を求めることができます。
【売り手の交付義務が免除される取引】
・3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
・出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
・生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
・3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
・郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
買い手の経理が楽になる
インボイス制度では、売り手側の請求書等に記載される消費税額が現行制度よりもかなり信頼できるものとなります。
買い手側の経理担当者としては、現行制度のように迷うことがなくなり、スムーズに経理ができるようになることが期待できます。
これまで数回に渡って電子帳簿保存法について解説してきましたが、
まだまだ不明な点、不安な点などが多々あるかと思います。
電子帳簿保存などの導入で不安な点があれば、税理士等にご相談ください。